Ⅲ 盤外こそわが戦場A(4)

Pピリ将FINAL

 

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「3姉妹ピリ駒ちゃん」(制作:びわのたねさん)

 

 

Ⅲ 盤外こそわが戦場A(4)

 盤外というと、スケールが大きすぎるならば、隣。

 高校や大学、職団戦、支部対抗戦などで団体戦の経験がある方ならわかると思うが、隣を意識するということが強さを引き出してくれることがあります。

 私事ながら、我が家のお隣はお金持ち。単にお金持ちというだけでなく、裕福でして、お庭の手入れも行き届いています。きれいな芝生が広がっています。対して、我が家と来たら、中古を購入したばかりということもあり、この一年は雑草との戦いでした。

 立ち止まって考えてみます。もしもお隣が茅屋だったら、どうなっていただろうか、と。

 お隣がきれいだから、こちらもきれいにするわけで、お隣がボウボウだったら、こっちもボウボウのままだったかもしれません。普通、お隣さんは選べないだけに、ラッキーでした。お金持ちになるつもりはありませんが、いつのまにやらプラスの影響を受けることにはなるでしょうから、感謝々々です。

 町内すべてに目を配ることはできないにしても、お隣を意識するということは、何もお家だけの話ではなく、心がけておいてよいことかもしれません。

 お隣の方が指している将棋に興味を持ち、今度、自分もやってみようかなと思うというのも、そうした考え方の1つです。私は将棋の大会や道場などで、他人の将棋を観戦するのが好きで、いつもお隣さんという意識で眺めています。岡目八目というのは囲碁の言葉でしょうが、隣で見ていると、手がよく見えるので、感想戦で、ああだこうだと口をはさみむのも、また喜ばしからずや。

 同じ理屈で、自分が指している将棋について、盤側に意見を求めることも。このとき大切なのは、盤側の意見の精度を高めるために聞き方を工夫すること。

 私がよく言うセリフは、「他によい手やアイデアがあったら、ぜひとも先生にご教示いただきたい。」です。

 「アイデア」を混ぜておくのが、ポイント。具体的な手だけでなく、発想や構想を学ぼうというのです。

 また、「先生」は半ばお世辞ですが、半ば真剣。私は誰にでも気楽に「先生」と言います。「人生我以外皆師」というわけですね。「先生」と呼ばれて、嫌な顔をする人はめったにいません。私の舞台の先生は、唯一の例外で「先生」と呼ばせてくれませんが、そのように立派な方なので、師事したとも言えそうです。

 「教えてください」も、人間関係をよくする秘訣。世の中、自称・先生ばかりなので、こちらから「先生、教えてくださいよ」とやるぐらいがちょうどよい。向こうから先生づらして来たらお断りだから、こちらから「先手を取る」のです。

 私は将棋を覚え立ての子にも、「気になるところを教えてください」と聞きますよ。この「気になるところ」もポイントで、目下や格下、教え子などには、この「気になるところ」が役に立ちます。

 「質問はありませんか?」と聞く講師がよくいますが、あれは二流。そのように聞いたら、「ない」に決まっているのですから。習うほうは、えてして、質問があるのかないのかを判断することができないものなのです。だから、「気になるところ、ありませんでしたか?」と聞く。

 「気になるところ」を聞かれているのですから、どこを聞いてもおかしいとは言われません。発言するハードル、心理的なバリアが、グッと下がります。

 級位者の感性というのは案外、勉強になるものです。教えてあげながら、実はこっちがよくわかっていないということもしばしばで、あとで勉強する材料にもなります。

 「教えてやる」という態度では、いけません。相手が誰であろうと「教えてください」という態度でいくと、共に探究しようという雰囲気が生まれてきます。

 現代は息苦しい社会が出来上がってしまっていて、ともに学ぼうとする姿勢が生まれにくい。連帯や共生、相互扶助というものが根絶やしになってしまっていて、一緒に何かをしようという機運が高まらない。しかし、将棋もそうですが、たいていのものはコミュニケーションの材料だと思うのです。

 一緒に景色を見るでもよし、鍋を囲むでもよし、盤を挟むというのも、そういうことの1つに過ぎないと思っているので、隣に熱湯があったら水と混ぜ、隣に冷水があったら熱湯をぶちこむ。そして、適温にしてから、共に湯につかりましょう。そういうイメージ。

 もう少し、お隣さんへの意識を高めてみませんか? 今のつまみが3ならば、4に、4ならば5に上げてみませんか?

 たったそれだけのことで、将棋が強くなるから、不思議です。

 「その駒のお隣さんは、大丈夫かい?」