おまけ 自分に合った方法? は?

Pピリ将FINAL

 

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「3姉妹ピリ駒ちゃん」(制作:びわのたねさん)

 

 

おまけ 自分に合った方法? は?

 

 将棋が強くなる方法は、たくさんあります。

 ですから、「自分に合った方法を探ることが大事だ」と、よく言われますね。

 それはもちろん、正論ですが、しかし、それは同時に、耳ざわりがよいだけの、ていのよい逃げ口上という気がしないでもありません。

 だって、結局、何も言っていないに等しいじゃないですか。そう、いわゆる「自己責任論」と同じで、コーチは何ひとつ責任を負っていないわけですよね。

 もちろん、コーチでなければ、こういう無難な言い方になるのでしょう。それは理解します。しかし、私はコーチなので、こういう無責任な言い方は絶対に使いません。

 あなたに合うかどうかは、あなたじゃないから、知ったこっちゃない。けれども、「こういう方法があるので、あなたに合うかどうか、試してみませんか?」 こういうふうに提案してみて、何が悪いのでしょうか? その後にはじめて、「合う」とか「合わない」とかいう議論が出てくるはずのものです。

 私がおすすめするのは、大局観を別にすれば、終盤力の養成。序盤や中盤は後回しにして、まずは終盤力を徹底的に磨きましょう。

 よくある展開ですが、序中盤で劣勢になって、相手が油断しまくっているところで、終盤力だけ異常に強いのを生かして逆転勝ちするということが割とあるものです。だから、将棋は結局のところ、終盤力だと思うのです。

 それでは、どのようにして終盤力を養成するか? 私は昔から言い続けていますが、終盤力=詰将棋力ではない。

 いや、基礎的な詰将棋は、必修です。そこは、他の方の主張と何ら変わりません。いわゆるハンドブックを繰り返し解くということは前提です。最低でも20回は周回し、フラッシュで解けるようにしてください。できれば、9手や11手ぐらいまでは解けるようにしておいてほうがよい。なぜなら、多くの人は、7手詰めぐらいで、ギブアップしているから。その上で、1手必至にも同様に取り組む。

 しかるのちに、囲い崩し、詰めろ逃れの詰めろなど、終盤の総合力=考え方を何らかの参考書でみっちり学んだら、後は実戦で磨くのが最良です。

 ただし、漫然と指していても、強くはなりません。私のとっておきの終盤強化術は、「あえて詰まさない縛り」です。

 いわゆる詰将棋は、最短手数で即詰みに討ち取ることを推奨します。ところが、私の「あえて詰まさない縛り」は、その真逆を行く。長手数をいとわず、詰めろの状態をできるだけ長くキープしたまま、終局へ導くというものです。

 ねらいは、2つ。1つは、相手に精神的なダメージを与えるという、いわゆる大山流。しかし、もう1つとして、終盤力を鍛えるというものがあります。当たり前ですが、詰ますよりも、詰まさないほうが読みは複雑になります。読む量が数倍になります。しかも、手数を長くしようとすると、その分、難しくなる。

 常にそのような状況に浸しておくことによって、長い手数を読むこと、複雑な局面を読むことが習慣化してくるわけです。

 終盤の基礎が必要だといったのは、こういう境地を目指すからです。

 1つだけ、私の実戦からわかりやすい具体例を示しましょう。

 下の図は、角換わりの俗にいう▲4五桂ポンにより、すでに必勝の局面です。圧倒的な駒得、彼我の玉形差からも、それは明らかでしょう。

 

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図 △5四歩まで

 

 ここでは即詰みがありますので、読者の棋力はそれぞれでしょうが、まずはそれを読んでみてください。

 答えはたくさんあるので、最短の例を示すと、▲4五桂△4四玉▲5三角△5五玉▲5六金の5手詰めです。下に逃げるのは、▲4五桂△4二玉▲5三金で早詰み。

 ▲5三角のところで、あえて▲3三角と打っても、詰ますことができます。いずれにせよ、▲4五桂と打てば、それで終わり。

 ところが、それでは修行になりません。

 そこで、あえて複雑化していきます。実戦では、あえて▲5三銀と打ちました。「玉は包むように寄せよ」という格言に忠実な次善手です。

 詰将棋が苦手な人、めちゃくちゃ終盤が強くなりたい人は、このように「あえて詰まさない縛り」を自らに課すという方法があるのです。曲線的な将棋にも強くなれます。どうすれば詰むかだけでなく、どうすれば詰まないかも同時に読む訓練になるからです。

 そもそもはCPU相手の5五将棋駒落ちで全駒するというトレーニングを自らに課した経験から、一般的な将棋常識に反するこうした方法を編み出しました。皮肉なことに、反ー詰将棋を標榜していたのに、詰将棋の不成、打ち歩詰め回避が得意になったという副産物まで手にすることができました。

 さて、図に戻りますが、▲5三銀は、はさみのように、後手玉の4二と4四の退路を塞いでいることがわかると思います。竜の利きもあるので、これで玉のすべての逃走ルートを遮断したということで、良い手です。こういう手を、良い手というのです。

 詰将棋の妙手は、その場かぎりの使い捨ての手ですが、こういう手は普遍的な手で、どのような場面でもすぐに役に立つし、いくらでも応用がきく手です。また、どのような棋力であっても使えるという意味では、教育的でもあります。

 ▲5三銀の後は、△2二歩と打って竜のタテの利きを消してきましたが、今度は▲3六桂と打ちました。やはり同じ思想に基づく手で、後手玉の2四と4四への逃走ルートをシャットアウトした手です。

 △3五角と2四を守るとともに5三の銀を外しに来る手に対しては、角には角で、▲4二角と打ち、王手で5三の銀に紐をつけつつ、2四の地点を強化しました。

 安い駒から使っていく。数を足していく。どちらも、基本に忠実ですね。

 △2三玉と逃げる一手ですが、▲2八香と打ちます。「下段の香に力あり」という格言の通りであると同時に、大駒や香車で遠くから王手をする手は、アマチュアの早指しにおいて、相手の時間を削るという効果もあるため、おすすめです。

 歩合いは二歩になるので、△1四玉と逃げましたが、▲2五金と打ちます。△1三玉なら▲1四歩が打ち歩詰めになるわけですが、そのようなところもいちおう読みに入れて楽しんでいます。詰将棋創作のような楽しみ方ですね。

 △2三玉でしたが、そこで▲3五金と寄って、相手の方はようやく投了となりました。空き王手で、角を素抜いて詰み、というわけです。

 以下、指し継ぐなら、無駄合いをしないということが前提ですが、△1三玉か△1四玉。最短の返しなら、▲2四角成で、完全に詰み。

 さすがに毎回ここまでやると、友達を失ってしまいますし、性格も歪んでしまいますから、ほどほどにしたいものですが、読みの訓練にはなります。

 相手の側に立つと、このような必敗の局面で、最後まで指すこと自体、潔いとは言えないと考えます。そもそも図の局面あたりで投了して、明るく「もう一丁!」というのが正しい姿勢だと私は思っています。そうでないと、相手に苦手意識を持つだけでなく、時間ももったいないですし、自身のメンタルもやられてしまうからです。粘りは大事なことですが、意味のない粘りは無駄合いと同じで、峻別する必要があるでしょう。

 ともあれ、あえて勝負を長引かせることが訓練になるという「シン・長手数の美学」(?)も世の中にはあり、実践している人もいるのだ、という情報提供です。

 そもそも藤井聡太先生やAIのような詰将棋の達人と、詰将棋対決をするのは愚の骨頂ですから、そうでないフィールドで寝技に持ち込む術を鍛えたほうがアマチュア的には現実的なのです。

 以上、あくまでも「参考」の1つまでに供しました。