Ⅰ はじめに感動ありきB 棋譜並べ(9)

Pピリ将FINAL

 

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「3姉妹ピリ駒ちゃん」(制作:びわのたねさん)

 

 

Ⅰ はじめに感動ありきB 棋譜並べ(9)

 ここからは、級位者であれ有段者であれ。棋力不問の助言に移りましょう。

 どのような棋譜を選ぶか。この話題は、級位者向けのところで展開しましたが、もし付け加えることがあるとするなら、定跡との連携ということぐらいでしょうか。

 有段者にとっては既知のことからいくと、最近の棋譜集は棋士別に編まれているものと、戦型別に編まれたものとに大別されます。この戦型別のものを上手に活用すると、得意戦法を身につけたり、苦手戦法を克服したりすることの役に立ちます。

 もちろん、棋士別のものも、その棋士の得意戦法や棋風を追尋することができるので、結果的には同じかもしれませんが。

 ともあれ、特定の戦型のスペシャリストになるために、棋譜並べを活用するという方法があります。

 級位者に特におすすめな方法としては、定跡書の巻末に載っている棋譜を活用した棋譜並べです。

 私の場合、年齢がバレますが、『羽生の頭脳』の巻末の棋譜をよく並べたものです。いや、今でも並べています。さすがに定跡自体は古びてしまったところもありますが、羽生先生初期の棋譜集として、今でも十分学びになると思います。

 これはあくまで一例にすぎませんが、定跡の講座と棋譜がセットになっている棋書は、プロの先生がアマチュアにもお手本になるものとして厳選していることが多いので、定跡と実戦を橋渡しし、両者の歯車の噛み合わせをよくして威力を倍増してくれるものとして、たいへん重宝です。

 要するに、基礎力と応用力を連動的に学ぶということですね。これは、将棋にかぎらず、非常に重要な視点です。

 「ああ、なるほど。実戦では、こんなふうに応用するのか!」

 このような感動、感嘆が、あなたの棋力を高めてくれる原動力となるのです。

 有段者だと、将棋年鑑がおすすめです。図面が少ないので、級位者にはハードルが高いかもしれませんが、一年間の棋譜を大量に収録した電話帳みたいな本なので、棋譜の量が圧倒的に多く、物足りないなどという感想は絶対に浮かびようがありません。先ほど述べたこととは矛盾しますが、序盤だけ並べるということもできますし、巻頭に戦型別の目次があるので、テーマに合わせて並べることもできます。まだ試したことのない人は、一度試してみる価値はあると思います。

 

 

 さて、定跡との連携、すなわち序盤との連携があるのであれば、終盤との連携というものが思い浮かぶのも理の当然というもの。

 終盤の本で、巻末に棋譜が掲載されているものや、実戦に取材したものを用いれば、そのような連携も可能になりますよ。

 まず終盤だけ勉強しておいて、次に棋譜並べをすると、一局の流れの中で、どのようにお膳立てし、その局面を迎えるのかというところの前提条件を確認することができるわけです。

 推測ですが、プロアマ問わず、棋譜並べは序盤を基準にしている方が多いのではないでしょうか。しかし、終盤から逆算して棋譜並べをすることも、私の目にはかなり魅力的な方法に映ります。

 畢竟するに、将棋は、便宜上、序盤・中盤・終盤の3つに区分されます。この区分はもちろん、非常に重要な区分だと思うのですけれども、その一方でそれぞれを結ぶ汽水域を意識することも同じぐらい大切だと私は考えています。

 将棋は生き物であり、有機体であると私は捉えているので、それぞれをバラバラに切り離して、解剖するだけでは不十分だと見ます。棋譜並べは、総合力を鍛えるための勉強法だと言っておいたゆえんもまさにここにあります。

 序盤と全体、終盤と全体をなだらかに架橋することは、級位者であれ、有段者であれ、欠かすことのできない本質的な課題なのではないでしょうか?

 次の一手と連動させるという視点も、ここから出てきます。いわゆる『イメ読み』シリーズも、私にとっては棋譜並べの教材の1つです。未知の局面を前にしたプロの先生それぞれの大局観や読みを吸収することができるので、手放しでおすすめです。

 

 

 如上は1局単位でのお話でしたが、これをトーナメント単位、シリーズ単位で巨視的に捉える見方もあります。

 たとえば、藤井聡太先生でもその他の先生でも構いませんが、ある棋戦を制するまでのプロセスに焦点化するという方法がそれです。

 1回戦から順に並べていき、戦型選択から、メンタル、成長の度合いまでを追体験していく。

 タイトル戦なら、同一の対戦相手と先後それぞれの手番を戦っていく過程を追いかけていく。

 これは申し訳ないが観る将だけの方にはできない特別な体験と言わざるを得ません。もちろん、棋力が高ければ高いほど、繊細な部分まで触知することができ、楽しめる性質のものですね。

 どれだけ愛し合っている恋人や家族であっても、同じことを思い、考えるということは至難のこと。身体的にはそれなりに深く関わり合うことができますし、感情的にも共鳴したり共有できたりする瞬間は訪れますが、思考を同じくするということは、おそらくある種の研究者同士でなければ、なかなかできないことなのではないでしょうか。

 これまでほとんど誰も指摘してこなかったと思うので、あえて声明を発しておくのですけれど、私は将棋というゲームのすばらしいところは、同一の思考(論理的なそれ)の軌跡をたどることができるところではないか。そう考えています。

 

 

 一時は、棋譜集がほとんど販売されていない時期がありました。ところが、今は当時では信じがたいほどに空前の将棋ブームが到来。世は出版不況なのだとは思えないほど、良質の棋書、棋譜集が夥しい点数で出版されています。それはかえって、どの本を選び、購入すればよいのか迷ってしまい、情報の海に攪乱され、混乱するほど。

 ただし、こんなに恵まれている状況はもう二度と来ないはずなので、絶版になる前の今のうちに、自分なりの基準で、お気に入りの棋書、棋譜集を見つけ、座右に置いておくことを勧奨します。

 他の本と違って、棋譜集のよいところはレファレンス、データベースなので、「積ん読」でも構わないところ。定跡書のように廃れることもないですし、生鮮食品のように腐る心配もないですから、いつか役に立つと信じて持っておくことが許されます。

 大量に棋譜があると、無意識のうちに「全部並べないといけない」「たくさん並べないと最新の流行に置いて行かれる」という強迫観念に駆られますが、自分なりの基準を設け、独自のペースを乱されず、我が道を行く頑固さが要るということに、最近の私は気づいています。

 あれこれやっても身についていなければ意味はないし、そんな相手は恐るるに足らず。一球入魂ならぬ、「一譜入魂」の気概で、今日も棋譜並べに精を出しましょう。

 なお、お金がない学生の方は、図書館を活用すればよいと思います。また、中古の本なら激安で購入できることもあります。私も貧しいころは、そうしていました。

 もっとも、それなりにはお金持ちになった今は、ひいきの棋士の先生方に、少しでも利益となるよう、新刊でバンバン購入するように努めています。大口のスポンサーになることはできませんので、ファンとして当然のことかと思っております。本気で強くなるためには、それなりにお金をかけることも大事です。

 将棋ほど、お金のかからない趣味は珍しいのではないでしょうか。したがって、それなりにお金を使っても、バチは当たりません。お金を出せば、その分、元を取ろうとします。だから、あまり吝嗇(ケチ)なのは感心しません。それは、ここぞというところで、勝負する精神にも影響してくるのではないでしょうか。