Ⅰ はじめに感動ありきB 棋譜並べ(8)
Pピリ将FINAL
「3姉妹ピリ駒ちゃん」(制作:びわのたねさん)
Ⅰ はじめに感動ありきB 棋譜並べ(8)
もう少し、級位者へのアドバイスを続けてみようと思います。
級位者の方は、棋譜それ自体の内容もさることながら、形式面も少し考慮したほうがよいかもしれません。
つまり、一口に棋譜といっても、図面の多寡がある。級位者の方は、図面が多いものを選んだほうがよいと思います。
子どもには活字ばかりの本よりも絵本のほうがよいのと同じ理屈です。
図面が多いと、実際に並べている局面と一致しているかどうかの確認ができて便利です。また、図面が多いものは、解説も充実しているはずなので、そういう意味でも、おすすめなのです。
棋譜の中で私が最も高く評価し、最も強くおすすめするのは、幕末の棋聖と謳われた天野宗歩の棋譜なのですけれども、これを推薦するには一つだけ難点があって、級位者には並べにくいというところです。
内容は、折り紙つき。実力十三段とも言われた大棋士ですから。
また、江戸時代のものなので、現代のプロのものに比べると、相手との棋力に差があり、それゆえにかえって級位者であっても有段者であっても、アマチュアには参考になるというところも推薦のポイント。妙手が多く、感動も多い。実際、昔のアマ強豪は天野宗歩を並べていたのです。
ところが、形式面には少々問題があり、符号だらけで図面が少ないものだから、級位者にやさしくない。
最近は、棋譜集にしても定跡書にしても、一手ずつ解説するシリーズが出るなど、形式面で良い傾向が見られます。私はこの傾向をとっても高く評価します。
だから、天野宗歩の棋譜集もそのうちデザインを一新し、棋譜を厳選した上で再刊されるとよいのになあと願っています。
ここで、天野宗歩からは離れます。形式面で何と言ってもおすすめなのは、新聞の将棋欄だというお話に切り替えます。
新聞の将棋欄は、手数がある程度、限られているのがよいですね。最近は長すぎるものもありますが、あれはよくない。
有段者は脳内で並べる訓練になりますが、級位者は盤に並べましょう。このとき、繰り返し並べるようにすると、強くなれます。
私は子どものころ、数日間切り抜いて、すべて溜まってから一局を通して並べていました。しかし、このやり方はよくありません。そうではなく、1日に1日分(1譜)を並べる。その代わり、回数を多くするのが大事。
今はコロナで旅行ができませんが、私は旅行時に新聞を購入するのを無上の喜びとしていました。旅先では、普段、講読していない新聞を買うわけです。
移動中や食事中に、まずは黙読します。
ホテルに着くと、旅行カバンから布盤と駒を取りだし、実際に並べます。
たいていの場合は、第1譜とはかぎらず、第何譜であるかは、その日によってまちまち。だから、一局全体を並べる棋譜並べではなく、一部分の棋譜並べということになります。しかし、これがいいのです。
一局を通して並べるのが基本ですが、旅行中はあえて部分的、局所的な棋譜並べを堪能するようにしています。その代わり、深く考えることができます。まるでタイトル戦を戦っているトップ棋士であるかのように。
ちなみに、旅行から帰った後も、しばらくはコンビニで同じ新聞を買い続けることも多いです。やっぱり続きが気になるから。
けれども、それはおまけ。やっぱり、ホテルの一室で、棋譜のごく一部だけを並べる「クリッピング棋譜並べ」は、私にとって、もっともゴージャスな時間の過ごし方だと確信しています。極上の食材を試食するような気持ちの高揚を感じているからです。
何が言いたいか。級位者の方は、必ずしも一局全部を並べられなくてもよいということが言いたいです。25メートルプールで泳げないのなら、「最初は5メートルでも10メートルでもいいんですよ」と言ってさしあげたいわけです。
一局すべてを並べられないからといって、棋譜並べの楽しみを知れないなんて、もったいない!
部分的でもよい。その代わり、その部分を繰り返し繰り返し並べるというところに喜びを見出してくれれば、とりあえずは御の字だと強調しておきたいわけですね。