Ⅰ はじめに感動ありきA(9)

Pピリ将FINAL

 

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「3姉妹ピリ駒ちゃん」(制作:びわのたねさん)

 

 

 

Ⅰ はじめに感動ありきA(9)

 

 私は一度、死んだことがあります。いや、厳密にはもちろん、死にかけた、ということになりますか。

 忘れもしません。高校3年の10月10日のことでした。交通事故に遭い、目が覚めたのは、12月25日のクリスマス。約3か月の間、昏睡状態でした。

 このときの経験は、大きかったと思います。実際、大学受験にも関わったことなので、私の人生や性格を大きく変えてしまいましたし、変えてくれました。

 後悔がないといえば、嘘になります。戻ってやりなおせるのならば、やりなおして、もう1つの「ありえたはずの人生」を歩いてみたいと今でも願っています。

 しかし、時を巻き戻すことはできないので、皆様には「くれぐれも交通事故には気をつけてください」と助言するよりありません。また、私自身も、「今の人生」をまっとうするよりほかないわけですね。

 大小さまざまな不満はあるものの、しかし、「生きていた」「生かされてある」という事実に対しては、「もうけものだ」と感謝する気持ちが強いです。この感謝は、大いなるものに対する抽象的な感謝であると同時に、リハビリも含め、医療関係者の皆様お一人おひとりに向けた具体的な感謝でもあります。

 このような経験をすると、不思議なことに、最初こそ絶望的な気持ちになり、自暴自棄な行動をとるようになるわけですが、次第にもう一度、人生をリセットし、一瞬一瞬を大切にしながら、改めてがんばってみようという勇気につながってきます。

 将棋にかんしていうと、改めて初心者から謙虚にやりなおそうとすると、調子がよくなります。知らず識らずのうちに、基礎を見下すところがあるのを、一つひとつ反省し、丁寧にやりなおしていく。そうすることによって、上達するわけです。

 「急がば回れ」と言います。「初心忘れるべからず」という言葉もあります。どちらも、しみじみと良い言葉だと素直に感心させられるところです。

 心をからっぽにすること。これは案外、大事なことではないかと思います。将棋の初形は、駒落ちでなければ、いつでも対等であり、互角。きれいな澄んだ気持ちで盤に向き合うことを大切にしていれば、いつしか、上達しているのものだと私は実感しています。

 あなたも一度、死んだつもりで、やりなおしてみてはいかがでしょうか?