Ⅱ 二者択一は選ぶなA(3)

Pピリ将FINAL

 

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「3姉妹ピリ駒ちゃん」(制作:びわのたねさん)

 

 

Ⅱ 二者択一は選ぶなA(3)

 「○○だけ」商法は、詐欺にもつながっているので力んで叩いています。

 しかし、最も厄介なのは、注意すれば基本的に防げる詐欺などではありません。最も厄介なのは、自らの成長を阻む足枷になっている「○○だけ」言説。

 たとえば、将棋の戦法の選択にも、それは当てはまるでしょう。「『○○戦法だけで勝てる』などという煽り文句をいったい誰が信じるの?」そう思うのだけれども、どうやら、皆さん、これに引っかかっている。意識の上では疑いつつも、無意識ではそれにすがりたいという気持ちが強いようで、多くのアマチュアは、すぐに釣れてしまう警戒心の弱すぎる魚のようです。

 たしかに、勝ちやすい戦法とそうでない戦法があるのは事実です。また、わかりやすく会得しやすい戦法とそうでない戦法があるのもたしかでしょう。しかし、「○○戦法だけで」うまくいくほど、将棋は単純なゲームではありません。

 たとえば、佐藤天彦名人が電王戦でAIポナンザと戦ったとき、AIの採った戦法は何だったか? 初手▲3八金だったり、二手目△4二玉だったりしたのです。「名人に対してあんなふざけた失礼な手があるものか。」人間ならそう憤るところですが、AIは恐ろしい。そういう部分は、まったく考慮に入らないのです。

 この一事からしても、必勝法など存在しないことが明らかです。むしろAIですら序盤の正解を導けないところに、人間側としては安堵します。坂田三吉先生が初手に端歩を突いたことを例にしてもよいですが、将棋の戦法はほとんど無限にあります。

 私は初心者には中飛車を教えるようにしていますが、しかし、別に四間飛車でも、石田流でも、雁木でも、棒銀でも、何でもよいと思っています。これが偽らざる本音。将棋の戦法に一択なんて、あり得ない。ずっと中飛車一本で戦っていけるかと問われれば疑問で、結局、いずれは、四間飛車にせよ、石田流にせよ、雁木にせよ、棒銀にせよ、覚えていかざるをえないわけですね。

 なるほど、「二兎を追う者は一兎をも得ず」と言うではないかとおっしゃるのは、正当な反論かもしれません。しかし、私の答えは、次のようなものです。「まず一兎を追いかけ、次にもう一兎を追いかけよ。」

 結果が出なくとも、1つの戦法をある程度、深く研究し、試行してみることは、大切なことです。定跡には体系があり、その体系というものがあるということを知ることは、将棋の上達に不可欠です。したがって、あれこれやるのではなく、まずは仮に暫定的に1つの戦法に没頭し、掘り下げるということをおすすめします。これは級位者であっても、有段者であっても、共通の勧奨です。

 ただし、ここからが重要なのですが、もう1つの戦法も常に意識しておいてほしいと思います。いわば主専攻と副専攻を持つのです。1つの戦法がある程度、完成し、しっくりくるようになったら、いつでも、もう1つのセカンド戦法の開発に移れるようにしておく、ということです。

 このときの条件として、いたずらに結果(勝ち)を求めるのではなく、強くなること、地力をつけることを目標にしたほうがよいでしょう。「急がば回れ」と言いますが、安直な勝ちばかりを求めるとかえって遠回りすることになりますが、地道に強くなろうと努力すると最終的には多くの勝ちが転がり込んでくるようになります。

 投資。そうですね、投資のようなもの。プロでも多く指され、前例の多い定番の戦法を最低でも、2つぐらいは身につけたいものですね。