Ⅲ 盤外こそわが戦場A(9)

Pピリ将FINAL

 

f:id:Shouldgo:20180205143357p:plainf:id:Shouldgo:20180205143357p:plainf:id:Shouldgo:20180205143357p:plain

 

「3姉妹ピリ駒ちゃん」(制作:びわのたねさん)

 

 

Ⅲ 盤外こそわが戦場A(9)

 通してお読みいただいている読者の方は、すでにお気づきかと思います。

 この「盤外こそわが戦場」では、意図的に二項対立の図式を用いています。そうして、意識を盤上から盤外へと引きずりおろそうとしているわけです。

 いろいろな二項対立の図式が思い浮かびますが、いちばん強調したいのは、「準備・実行・後始末」です。

 「実行」が実戦で、「準備」と「後始末」は盤外ととらえれば、これも二項対立です。

 学校では通常、「予習復習」という言い方を使っていますが、皆さんは学生時代、予習復習をちゃんとやっていましたか?

 私の知るかぎり、この予習と復習を完璧にやっている子は、この世には存在しません。かつて東大生も何人か育てたことがあるのですが、彼らにしても、予習と復習が完全だったとは思わないからです。なるほど、予習型、復習型というように、一方に偏したタイプなら存在するのですが、しかし、両方をバランスよく兼ね備えた万能タイプは見たことがありません。

 結論。日本の学校に通っているかぎり、予習と復習は、身につかない。

 それでは、どのようにすれば、予習と復習が身につくのか。私自身の体験に即して書いてみましょう。

 私自身は、もともと予習も復習もしないタイプでした。さりとて、授業中に集中していたわけでもないので、要するに、落ちこぼれ、でした。しかし、将棋でも勉強でも、徐々に頭角を現すようになるわけですが、このときは明確に予習型でした。学校で習う前に、参考書を見たり辞書を引いたりして予習して臨む。将棋でも、事前に戦型などを研究して臨むので、予習型でした。

 テストが終わってそれを見直すことや、対局後に自局を振り返ることも、まったくやらないわけではなかったけれど、予習ほど積極的ではなかったし、時間もそれほどかけていなかったと思います。

 ところが、雀鬼こと桜井章一さんの御本を読んで、「準備・実行・後始末」ということを言われて、自分自身は「後始末」が弱いな、と気づきました。

 いや、実際のところ、コーチや教師としての私は、後始末の鬼。それなのに、自分自身のことになると、後始末に課題があることがはっきりしたのです。

 私がまず着手したのは、将棋ではありません。将棋以外の趣味に着目しました。たとえば、旅行。旅行へ行くときは、当然、誰でも準備をします。渡辺明名人は、旅行のときでも準備に抜かりがないそうですが、誰でもそれなりには準備しないと、旅行はできない、というのが普通でしょう。ところが、旅行が終わると、復習すれば、さらに楽しみや喜びが倍加するにもかかわらず、そのようなことはしない人が多いのではないでしょうか。

 そこで、私は旅行後に、きちんと振り返りを行うようにしました。写真を整理し、パンフレットをファイルし、行動を記録にとり、費用がいくらかかったかなどをこまめにチェックするようにしたのです。

 同じことは、演奏会にも当てはまります。演奏会へ行った後、プログラムやチケットをファイルに収め、感想などをメモに残します。

 最後は、将棋。私が強くなった原因は明確で、ノートをとるようになったから。棋譜だけではありません。対局のことはもちろん、相手の癖や対局場の雰囲気や特徴などを記録に残すようにしました。

 事後だけでなく、事前の準備も記録に残します。どの棋譜を並べたのか、何回並べたのか、どのように並べたのかなどを細かくメモします。

 そして、記録にとってそのまま、ではありません。必ず、記録は見返すようにしました。見返した感想も記録に残す。

 要するに、メモ魔になったわけですが、これが中年になって、メモリーが弱くなったものをカバーすることにつながりました。それだけでなく、行動する際のモチベーションにもつながり、一石二鳥の効果を生むことになったわけです。

 準備や後始末がしっかりしていると、肝心の盤上も冴え渡ってきます。外堀を埋めるとでも言いましょうか。全体のレベルが向上してくるから不思議です。