Ⅲ 盤外こそわが戦場A(6)

Pピリ将FINAL

 

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「3姉妹ピリ駒ちゃん」(制作:びわのたねさん)

 

 

Ⅲ 盤外こそわが戦場A(6)

 「人間の最大の弱点は後ろだ」と思っているわけですが、もう1つだけ、どうしても取り上げておきたいテーマがあります。

 それが「ナナメ」。将棋をずっと指しているから、角のラインには十分、気をつけているはずです。ところが、それでも、ナナメをうっかりすることがある。

 このナナメのライン問題を克服するためには、精神論じゃ、ダメ。

 「角筋、二万回、確認」

 この格言は微笑ましく、肝に銘じておきたいが、しかし、念仏を唱えているだけで満足しているようでは、まだまだです。

 それでは、どうすれば、角筋に強くなれるか。

 実戦と実践あるのみ。これが私の出した結論です。

 実戦と実践。

 蛇足だが、この同音異義語は、将棋指しなら、ちゃんと使いこなしてほしい。棋士には、プロアマ問わず、国語力ない人が多いのか、それとも、幼いころから「ジッセン」といえば100%「実戦」だと決め込んでいるのか知らないが、とにかく、よく間違えています。私の場合は後者でしたが、逆に『終盤の定跡』という本の「実践編」というのを目にしたとき、「実践」という言葉もあるんだと「感動」して、使い分けられるようになりました。当時、やたら「実践」という言葉を使いたがったものです。

 というわけで、実戦と実践なのですが、ここでは次のように定義しておきます。実戦は、言わずと知れた、将棋の実戦。研究やトレーニングではない対局全般を実戦と呼びます。これに対して、実践は何でも実地にやってみること。それがたまたま将棋であるということもないわけではありませんが、基本的には将棋以外の実践というふうに独自に位置づけておきます。

 そうしたとき、ナナメに強くなるというミッションに対する「実践」は、数多くの候補が浮かびます。これを片っ端から、それこそ「実践」していきましょう。

 もし、あなたが学生さんなら、教室の座席を将棋盤に見立てて、ナナメのラインを確認しましょう。タテ・ヨコ・ナナメの特にナナメを強めに意識してみる。

 散歩するときも、斜行してみると、よいでしょう。京都や札幌のように碁盤目になった都市の遊歩や、公園などでもナナメに進むことのできるところなどで、私はよくナナメ歩きします。

 そういえば、将棋のトレーニングというか、息抜きに始めたリバーシ(オセロ)は、あっという間に将棋と同じぐらいの腕前になってしまいました。これもそもそもは、ナナメ強化の実践の一環だったのですが。

 最近、はまっているのが、連珠。これはめっぽう面白い。ナナメをうっかりするのです。

 盤内での実践だと、棋譜並べの最中、初心者のように、テン・テン・テンと、指さし確認するように努めています。実際、角を大きく動かすときでも、1マスずつ動かす。

 実戦の最中も、相手の方よりも角筋を1回でも多く確認するということを意識しています。比べようはないのですが、そこで対抗意識を燃やす。

 「この角筋、見えていますか?」

 「ははあ、角筋ですか? わかっていますよ。」

 常に、心の中では、このような対話を繰り広げています。

 そういえば、弱かったころ、意識的に角換わりや角交換の将棋ばかりを集中的に指していた時期があります。これはよいトレーニングになりました。

 このように、ナナメの克服は、実戦と実践のWで行くのがおすすめなのですが、ケイマとなると、そうはいきません。こればかりは将棋盤の上で実戦=実践するよりほかに仕方がない。

 桂馬は、日常ではお目にかかれない、本当にトリッキーな動きをするので、見落としが多くなりがち。実際、大山名人に対抗するために、中原名人は桂づかいの名人になったと言いますね。

 升田名人は角づかいの名人で、中原名人は桂づかいの名人。

 プロの世界でもこんな感じですから、アマチュアは角と桂馬に関して、独自の実践的な特訓を敢行しても決して損はないと思います。

 初級者の方は特にそうですが、すべての駒の動きをこのように実践も交えつつ点検していくと、実戦での腕も上がりますよ。私の経験だと、飛車の横利きを十分に使えていない級位者が多い。飛車は基本的にヨコに使うと押さえておきましょう。

 タテ・ヨコ・ナナメ・ケイマの順で、人間は苦手にしているので、このことを熟知し、血肉化しておくと、あなたの将棋はグッとよくなるというわけです。

 最後に、私の対局直前のルーティンをお教えしましょう。

 駒を並べ終わったら、まず脳内で駒をビュンビュン光速で縦横無尽に奔らせます。

 最初は、飛車を縦横に動かす体操。符号が苦手な人は「ごめんなさい」なのですが、2七、2六、2五、2四、2三、2二、2一、2二、2三、2四、2五、2六、2七、2八、2九。8四、8五、8六、8七、8八、8九、8八、8七、8六、8五、8四、8三、8二、8一。1八、2八、3八、4八、5八、6八、7八、8八、9八、8八、7八、6八、5八、4八、3八、2八、(以下、略)

 お次は、角行をナナメに動かす体操。符号は、省略しますが、筋違いでも動かすのが味噌。

 最後は、桂馬をピョンピョン跳ねる体操。符号は、やはり省略させていただきます。

 序盤の何でもないところで時間を使うときも、こういう運動を実は絶え間なく行っているんですよ。

 実戦でなく、棋譜並べのときは、それこそ実践で、実際に盤駒を使って、これらの体操を行っています。

 棋力が伯仲する場合は、何で差がつくか、すでに皆様、おわかりですね。そう、晩成派が天才をやっつけるためには、こうした地道なルーティンが、勝負を決するというわけです。

 ただし、毎日、毎回、やらなければ、すぐに、あっという間に効果は逓減するので、ご注意ください。

 「角筋、二万回、確認」

 トイレとこれだけは、対局前に済ませておきましょう。